吉本ばななさんの『High and dry(はつ恋)』(文藝春秋)を読んだ。
吉本さんの本を読んだのは初めて。
ここに来ている人は意外に思われるかもしれないけれど、
わたしは5年前まで日本人作家の小説はあまり読んだことがなかった。
流行の小説というものもほとんどと言っていいほど読んだことはない。
それは映画も同じだけれど。
この本を手に取ったのは、児童文学のコーナーに置かれていたから。
出だしを読んで「借りよう」と思った。
ああ、大好き!と思う本だった。
でも、何がなのだろう?
心に響いた箇所を書いてみる。
キュウくんは言った。
「・・・(家出していた)母が帰ってきたあと、家族で旅行に行ったんだ。
冬だから暖かいところへ行こうっていうことになって、沖縄に行ったんだ。
うちのお母さんは沖縄の出身で、その頃はまだ祖母が生きていたから、そこに遊びに行ったの。
それで、冬だから泳がないまでも近所のきれいな海辺に行って、
いつもみたいにお母さんは自分の世界にぼうっと入っていって、
父は缶コーヒーを飲んでぼうっとしていて、波の音がしていて、
僕はそれでも両親がまた仲良くなったことや、車の中でたわいない話をして
いちゃついていたことなんかが嬉しくて、神様に強く祈ったんだ。
足元を見ているふりをして、強く。この平和を僕から奪わないでください、って。
その時に、足元には、いろいろな貝と、珊瑚と、王冠と、ガラスのかけらと、丸石と、
缶のつぶれたのなんかがいりまじって、光に当たって、妙にきらきら光っていたんだ。
僕はそれをとても美しいと思い、目に焼きつけた。それは誰のとも違う、僕だけの祈りだった。
くだらない条件づけだと思ったことも何回もあったけれど、
でも、僕だけのものを僕だけが育てていこうとも思えた。
でも、そういうのって後づけかもしれないじゃない?
もしかしたら、僕の創る世界がどこかの世界にそっくりそのまま存在していて、
それが僕のほうに歩み寄ってきたのかもしれない。それから、なんだかわからないけれど、
生まれるより前に、僕の創るような世界に僕はいて、
生まれたらこういうのを作品にしようって思っていて、
それで人生の大事な場面で似たようなものをそうやって見て、これだ!と思ったのかもしれないし。・・・」
お母さんは・・・言った。
「人は、人の死や仲間とのあつれきを受け入れるようにはできている。
でも、殺人や戦争を受け入れるようにはできていないわ。
少なくともそう信じている人がたくさんいるから、人は続いてきたのではないかしら?
もちろん、私たちはみんな小さな箱に入っているものを見ているようなものだから、
別の箱から見たら別の考えがあるのでしょう。
でも、ここにいるからには、私たちは自分の箱を時には疑いながらも
その中にいることを最善として生きていくしかないのよ。」
この作品が好きだと思ったのは、キュウくんや夕子ちゃん(主人公)のお母さんが
自分に似た世界に生きている気がしたからかもしれない。
だとしたら、吉本さんも遠い世界の人ではないのかも。
またわたしの世界がちょっと広がる予感(笑)
吉本さんの本を読んだのは初めて。
ここに来ている人は意外に思われるかもしれないけれど、
わたしは5年前まで日本人作家の小説はあまり読んだことがなかった。
流行の小説というものもほとんどと言っていいほど読んだことはない。
それは映画も同じだけれど。
この本を手に取ったのは、児童文学のコーナーに置かれていたから。
出だしを読んで「借りよう」と思った。
ああ、大好き!と思う本だった。
でも、何がなのだろう?
心に響いた箇所を書いてみる。
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キュウくんは言った。
「・・・(家出していた)母が帰ってきたあと、家族で旅行に行ったんだ。
冬だから暖かいところへ行こうっていうことになって、沖縄に行ったんだ。
うちのお母さんは沖縄の出身で、その頃はまだ祖母が生きていたから、そこに遊びに行ったの。
それで、冬だから泳がないまでも近所のきれいな海辺に行って、
いつもみたいにお母さんは自分の世界にぼうっと入っていって、
父は缶コーヒーを飲んでぼうっとしていて、波の音がしていて、
僕はそれでも両親がまた仲良くなったことや、車の中でたわいない話をして
いちゃついていたことなんかが嬉しくて、神様に強く祈ったんだ。
足元を見ているふりをして、強く。この平和を僕から奪わないでください、って。
その時に、足元には、いろいろな貝と、珊瑚と、王冠と、ガラスのかけらと、丸石と、
缶のつぶれたのなんかがいりまじって、光に当たって、妙にきらきら光っていたんだ。
僕はそれをとても美しいと思い、目に焼きつけた。それは誰のとも違う、僕だけの祈りだった。
くだらない条件づけだと思ったことも何回もあったけれど、
でも、僕だけのものを僕だけが育てていこうとも思えた。
でも、そういうのって後づけかもしれないじゃない?
もしかしたら、僕の創る世界がどこかの世界にそっくりそのまま存在していて、
それが僕のほうに歩み寄ってきたのかもしれない。それから、なんだかわからないけれど、
生まれるより前に、僕の創るような世界に僕はいて、
生まれたらこういうのを作品にしようって思っていて、
それで人生の大事な場面で似たようなものをそうやって見て、これだ!と思ったのかもしれないし。・・・」
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お母さんは・・・言った。
「人は、人の死や仲間とのあつれきを受け入れるようにはできている。
でも、殺人や戦争を受け入れるようにはできていないわ。
少なくともそう信じている人がたくさんいるから、人は続いてきたのではないかしら?
もちろん、私たちはみんな小さな箱に入っているものを見ているようなものだから、
別の箱から見たら別の考えがあるのでしょう。
でも、ここにいるからには、私たちは自分の箱を時には疑いながらも
その中にいることを最善として生きていくしかないのよ。」
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この作品が好きだと思ったのは、キュウくんや夕子ちゃん(主人公)のお母さんが
自分に似た世界に生きている気がしたからかもしれない。
だとしたら、吉本さんも遠い世界の人ではないのかも。
またわたしの世界がちょっと広がる予感(笑)